夜中の初登山のような心境、ライトとコンパスと仲間と。(まいさん)
オーガナイザー紹介
私は、たまに人と話すのが緊張するときがあり、特に人に何かをお願いしたいときにあれこれ考えて頼めないことがありました。それ故に、コミュニティ・オーガナイジング・ジャパン(COJ)に勤めている友人(=COコーチ)からKIKOOPワークショップの参加を声かけてもらったときは「難しそう。受けても自分が活かせるか自信がない」と躊躇しましたが、「人生を豊かにすることにも役立つと思います」と言ってもらったことで心が揺らいで、参加してみました。
結果、ワークショップを受けてCOを知って良かったです!自分と仲間が目指したことが前例のないことだったため、去年は何度もめげるときがあったのですが、 COの視点を知って自分たちの状況を整理して打開策を見いだすことができました。 「ストーリー・オブ・アス」や「アスク」というCOの要素を元にした会話を通じて、仲間になりたい人たちに協力してもらうことができて徐々に気持ちが楽になっていき、そして、何より、チームミーティングでCOを活用しながら作戦を吟味し続けた結果、自分たちが目指したことが達成できました。
COの内容は、簡単ではないですが、気候変動に気づいて動こうとしている人や動いている人にとって、一助になるんじゃないかなと思います。
なぜ気候変動の活動をしているか
私は2020年頃に気候変動とティッピングポイントを知ってから、「後回しにしたら大変なことになりそう。自分の生活の自由が減るんじゃないか?」「このテーマパークは再エネ100%じゃないから多分化石燃料で動いて…遊ぶと排出国として被害に加担することになる?」など、日常で不安を感じていました。温暖化の右も左も分からなかった私は、若者ムーブメントFridays For Futureと環境NGO 350 Japanのボランティアチームに参加しました。
いま活動している主なモチベーションは、自分を安心させたい気持ちです。仲間と一緒にパブコメや署名などを行う度、全国の市民アクションの成功事例を知る度に、嬉しさや希望を感じました。一方で、気温上昇と災害のニュースや、日本の対策の方針を知ると焦りや不安、無力感を感じて、気候変動について議論をしている中でパワハラを受けたときには悔しさや悲しさもありました。それでも、やっぱり傍観していたくなくて、温度上昇が最悪になる前にできることをやっておきたい、被害に遭う人が少しでも減ってほしい、再エネ100%の町を早く見たい、という気持ちで動いています。
コミュニティ・オーガナイジングが役に立った場面 ~COを活かし自治体を応援するキャンペーン~
私たちが立ち上げ当初に困っていたこと、COを使って得られた効果や変わったこと、そして3か月間のキャンペーンの経過を順番に書きます。
「COって何だ」って思っている方に向けて情報をおすそ分けしたいと思って書いていますが、長くなっているので、気になる部分から見ていただけたらと思います。
<自治体アプローチの始め:1人から3人に>
2022年夏、私は東京都国立市の環境審議会の市民委員になることができたため、その後の会議で「2030年温室効果ガス(GHG)削減目標62%を候補に入れる必要があります」と提案しました。62%は、海外の研究シンクタンクが「日本が1.5℃目標に整合するために必要とされるGHG削減量」と発表している数値です。
2023年3月、2回目の審議会でも、科学的根拠を載せた資料を元に交渉を続けた結果、市の2030年目標の検討ケースの4つ目として62%を追加することが検討されました。さらに、同時期に実施されていた市役所の温暖化対策についてのパブリックコメントへの協力を私が仲間たちに呼びかけ、「目標を高く」「62%にしてください」という意見が約30件集まったことも市への後押しとなり、翌月に市の検討ケースとして62%が正式に追加されました。
そして、活動仲間からの紹介で国立市で働いている人と知り合い、市内の大学に通っている面識のある知人にも声をかけたら「一緒にやります」と言ってもらえたので、その3人で2023年4月にゼロエミッションを実現する会・国立(ゼロエミ国立)を始めました。
チームとして目指すことを「今年度に改定する国立市の温暖化対策計画で、2030年GHG削減目標が62%以上になる」ことに設定しました。これは、日本の政府も掲げておらず、全国自治体でも掲げているところは1つしかなかったのですが、「日本の各地で2030年までの気候変動対策がどんどん進んでほしい。そのために国立市が先陣をきってほしい」という思いから決めました。
<手探り期>
自分たちが決めたゴールを目指す中、最初の3〜4ヶ月は模索しました。チームで動き始めた最初の成果として、市長との面談ができましたが、課題としてメンバー個々人の市内の知り合いが少なくて3人だけでは足りないことが挙がっていて、さらに、市の草案および2030年GHG削減目標の決定が秋で、動ける時間が5ヶ月しかないと気づいたときに「これから大変だ」と思いました。
次の動きで、私たちは市長に「私たちの切迫感と、気候危機の今後の影響、1.5℃と2℃上昇の違いを知ってもらおう。1.5℃をどう捉えているか知りたい」と思い、気候変動の最新情報をまとめた意見・要望書を提出しました。意見・要望書には、国際社会の気候変動対策の合意の変遷と科学的知見に基づく今後の影響を載せて、面談での直接の返答を求めました。ただ、代理として市役所から文書で回答が届いて見てみると、市長を含む市役所の方々と私たちの危機感にはまだ乖離があることを実感し、残念に思いました。「今の方向で動いていてゴールに近づくか?」という迷いと焦りの気持ちが生まれました。
<COを使って、今の自分を活かしてアプローチをする>
2023年6月にメンバー3人でKIKOOPワークショップにゼロエミ国立として参加しました。参加者は30名ほどで和やかな雰囲気でした。市民運動の成功のミソが詰まったスライドを見ながら作戦の立て方やキャンペーンを広げていくプロセスを教わり、5人グループで模擬アクションを話し合う演習をしました。全部を1回では分からなかったですが、「なんか使えるかも」という希望を少し感じました。
➡COの考え方として、
・チームが燃え尽きないように活動を続けてゴールを達成するために、やる気がでることを行う
・個人に負担がかかりすぎないよう、メンバーそれぞれがもっているものを活かす
・政策や法律などの決定に大きな力をもっている立場の人との力の関係性を、市民のパワーを使って変化を起こす
があるそうです。それは、私がチームで活動をするときに大切にしたいことだと思いました。
・何を考え、何を話す必要があるかが見える
私はゼロエミ国立を立ち上げた当初、仲間と話し合えて一緒に動ける心強さを感じつつも、脳内では自分だけが知っている情報をメンバーに共有できておらずキャパオーバーになりそうで、何を話して決めて動いたらいいかが分からなくて困っていました。具体的には、ゼロエミ国立を始める前に私だけで市役所の方や議員との面談を何回かしたことがあったため、それぞれの方の気候変動への見解や今後の障壁になりそうな要素、市の温暖化対策の現状などが、私の頭にあったのです。これらは今後の作戦の組み立てに関わることで、ミーティング中にメンバー2人に話していると時間があっという間に過ぎて、次に動くことを決められずに終了時間になってしまったり、ミーティング直前でも「心配事を共有したいけど今週は計画を立てなきゃいけないから無理かな。でも何を話し合ったらいい?どう決める?」と思案していると議題を決めきれずに、結果、ミーティング時間も延びて自分で落ち込んでしまったりすることがありました。
また、市内で私だけがつながっている知人が何人もいて、その人たちと仲間になるために連絡をとって会って話すのは私が担当になっていましたが、他にタスクがあったためそれを2か月ほどできず、「自分ができていない」感覚を抱いてしまっていました。
ワークショップを受けた後、まずチームミーティングで「気候変動において同志になってくれそうな人」と「私たちが求めているものを決定する人」をメンバーで洗い出し、「関係者マップ(=既に知り合っている仲間やこれから関わりそうな人)」にどんどん書き込みました。これをすると、まだ私たちが知り合っていないけど挨拶に行けばもしかしたら仲間になれる人は多くいるかもしれないと思えてホッとして、実際に今まで緩い同志(署名や面談に同行してもらうなど簡単な活動なら協力してくれそうな人たち)と多くつながってきたなぁと再確認できて少し落ち着けました。次に、政策の意思決定者については「何人も候補がいて今の自分たちは分かっていない、確証がない」ということに気づきました。
これから話し合う内容や、計画の立て方も、KIKOOPで演習をした経験とスライドに必要なことが載っていることから、「これに沿っていけば先が見えてくるはず。大丈夫」と思えました。こうやって、少しずつスライドを使うと、頭の中の情報と不安材料をメンバーに共有でき、自分たちがこれから確かめる必要のあること、つまり計画を効果的にするために次にするべきことが分かってきて、肩の荷が少し減った気分になりました。
・ゴールまでの道のりを描く
とはいえ、障壁がまだあるように思えていました。その頃、2回目の市長面談の手配と、市役所主催の気候ワークショップでゼロエミ国立が登壇する機会をもらえて、その資料準備にも時間を充てていて、さらに自分たちのゴールを実現するための作戦がまだ具体化できておらず、「達成するための方法を考えるのが難しそう」という感覚がありました。フレームワークを進める中で困っていたことは、市役所のGHG削減目標を決める人たちの関心(どんな価値観で仕事をしているか、62%にどんな懸念があるか)が分からなかったことと、目標値の決定プロセスに関わる誰にアプローチをしたら効果があるのか判断できなかったことでした。
COの次のステップとして、ワークショップで学んだ(1)「変革の仮説」と(2)「戦術とタイムライン」をメンバーとコーチで話し合い、ゴールまでの効果的なアプローチを作り始めました。
(1) 変革の仮説
COのフレームワークとして、「もし私たちの同志が○○と△△(方法)をしたら、結果は(戦略的ゴール)国立市の2030年GHG削減目標が62%になるでしょう。なぜなら(理由)~~~~だからです。」という文を埋めるように、アイデアを出し合います。
ゼロエミ国立は、「これまで繋がった仲間と9月18日の気候アクションで知り合う人たちに、国立市が62%を検討しているということを示して、市役所への応援のメッセージを書いてもらうことで、市の担当者に市民からの支持(応援)が集まっていることを示せば、国立市の2030年GHG削減目標は62%になるでしょう。なぜなら、市民が市の温暖化対策に一緒に取り組もうとしていることと、市の政策を応援しているということを可視化させることで、市の担当者の62%設定への心理的ハードルは無くなるからです」という内容にしました。今までの気候変動アクションで聞いたことがない、推し活みたいな試みにワクワクしました!
(2) 戦術とタイムライン
戦術は、自分たちが効果がありそうと思える「次にすること」で、例えば署名やイベント参加、面談、スタンディングなどです。仲間の力、チームの力をつけながら戦略的ゴールに到達するという道のりのイメージ図を作ります。文字にすると、堅苦しいですね(笑)。タイムラインを自分でこれまで作ったことがなかったのですが、コーチのアドバイス「これをやれば達成に近づく。悔いはないと思える内容になるといいね」と言われたことを参考にして、「よし!」と思える戦術を詳細に決めていきました。
戦術が6つ決まったため、タスクは少なくなかったですが、2か月後に市役所への応援メッセージを手渡している場面を想像すると、「これでいける」という安心感がありました。取り組んだ相手に考え方を変えてもらうことを迫る行動をしていたときに比べて、メンバーみんなで吟味して「資源(持っているもの)を活かして」という視点で相手を応援するキャンペーンを作ることができて、やる気も湧いてきました。
COを学ぶ前の私とゼロエミ国立のやり方は「必要だと思ったことを一つずつクリアしていく」という方法で、短距離走のように1回1回バテていたのですが、今回「少しずつ同志を増やしたり仲間からの声を集めながら、6つの作戦を実行してゴールを目指す」という連続したプロセスを最初に作ったことで、とにかく全て実行することを意識できました。キャンペーンを終えた今、振り返ると、あのとき山登りのルート全体を把握できたため、疲れても歩ききることができたのかもしれないと思います。
・共通言語を得る
話し合いがどんどん進む感覚があったのは、チームメンバーの間で、作戦を練っていくための言語が統一できたことが大きいなと思います。
それまでは、自分の脳内会議やチームミーティングで、恥ずかしながら、ターゲットという1つの言葉でも「仲間になってほしい人たち」と「ゼロエミ国立が目指している削減目標数値を決定する人」という2つの意味が、ごっちゃになっていました。COを学び、「同志」と「ターゲット」という言葉を知って、使い分けて話し合えるようになり、スッキリしました。
また、「こうしたら、こうなるんじゃないかな」という見立てを話し合うとき、これまでは時間があっという間に過ぎて焦ることがありましたが、「今日は変革の仮説の途中から決めたいです」という一言でみんなで理解できて、すぐに話し合いに入れるようになったのが、私は助かりました。
・やらなくていいことを見定める
私は「やった方がいいかもな」という選択肢がいくつも思い浮かびがちで、ゼロエミ国立を立ち上げた当初は、行政に対してやろうかなと思ったことが20個くらいありました。例えば、市役所への情報開示請求や、市長宛の要望書、条例を作るための議員への働きかけなどです。「これをすれば何か進むかも」という案を並べてみても、どんな観点でどう選んだらいいのかが分からず、それらを選ぶ前に疲れていました。
そんなとき、コーチが「やらなくてもいいことはどれ?自分たちが使える時間やエネルギーは限られているから、本当に必要なことを優先するために絞った方がいい。止めていいことはやめよう」と助言してくれたことで、やることを選ぶことができました。メンバーみんなで、やりたいこと、かつターゲットにとってインパクトがありそうなことに絞ったことで、「これならできそう」とやる気が湧いたことは、今回の成功への推進力でした。
・前進したことを出し合う
伴走してくれていたコーチが、私たちのアクションをいくつか終えたタイミングで「燃え尽きないように成果を振り返ることが大事。これまでみんなが達成できたこと、良かったことを挙げよう」と言ってくれて、メンバーで振り返る時間がありました。チームで目標に向かって動いていると、目の前のタスクを考えたり、同時進行しているアプローチの進行状況に意識が向いたりしているため、どうしても「まだあれがある。やっていない」という感覚になりがちでした。
そんなとき、これまでやってきたことを声にして、みんなで書き出してみると、「そういえばこんなに動いていたな」「いっぱいがんばっていた!」と思えて、心の栄養になっていました。
<「人が動きたくなるのって褒められたときだね」という視点から生まれた「エールアクション」>
COのワークショップを受けて、「このチームだからこそできること」を考えているとき、メンバーの1人が「抗議や困らせて変化を求めることよりも、支持する方をやりたい。計画を立てて実行していくのは市役所の中の人だから、能動的になってもらうことが最終目的だと思う」と言ってくれました。その意見を踏まえて、もう1人が「チームのみんなの人柄を思い浮かべて、市役所を褒めて応援するのが向いていると思った。人って、何か動き始める動機は、褒められて嬉しくなることが多い気がした。褒めアクションはどうかな」とアイデアを出してくれました。
また、それまで環境政策課の職員さんと面談を重ねる中で、先方がパブコメの市民の声を踏まえてGHG62%削減ケースをシナリオとして追加してくれたことや、夏に市役所が主催した気候変動についての市民ワークショップの資料で「2030年温室効果ガス削減58%」という言葉を書いてくれたことから、春よりも担当課の方々が少しずつ気候変動対策に対して前向きになってくれているかもしれないという兆しも感じていました。「市民の声を聞いてくれる市役所だな」と思い、市役所の職員さんを応援するエールアクションを、残り2か月のキャンペーンに決めました。
メンバーそれぞれが市内の知人や市外の気候活動家とのつながりを持っていたので、いろいろな人の思いを署名や寄せ書きという形で集めて可視化させたりしました。署名は、Googleドキュメントで集めて、名前だけでなく応援コメントを書いてもらいました。手書きの寄せ書きもあわせて、合計約170名の方から「自分も頑張りますから市役所の方も頑張ってください」「ファイト!」などの温かい言葉が届きました。
また、市内に住んでいる・通っている26名の方にインタビューもさせていただき、動画にまとめました。環境政策課の方にそれらを届けた際、課の方が「みなさんの熱意を踏まえて策定を努力していきます」と仰ったのも印象的でした。いろいろな方の想いが集まったことも嬉しかったですし、その気持ちが環境政策課に届いた、受け取ってもらえたなと思えてほっとしました。
今回インタビューで市内の知人から「市民と行政は普段あまり接する機会がないから、知らず知らずのうちに距離が遠くなってしまいがち。お互いに話し合える関係になっていきたいですね」という話があり、「私も含めてそんな自治体が増えたら素敵だな」と想像しました。職員の方3人と対話を重ねることで、その人の輪郭や頑張っていることが少しずつ分かってきて、個々人を応援できたことも、私が活動を続けられた理由の一つだったと思います。
そして、2023年11月末に発表された審議会の内容では、GHG削減目標を62%に引き上げる予定であるということがわかりました。資源を組み合わせて、自分たちらしさを追求していった「エールアクション」の結果が出て、「協力してくれたみんなの思いが届いた」と思い、安心し、嬉しく感じました。
これからCOを学ぶか検討している人に一言
人見知りな私が、アップダウンしながらも9か月間動けた理由は、チームのメンバーをはじめ色んな方々が協力してくれたおかげで、それができた理由はCOを知ったことが大きいなと思います。やはり気候変動の活動をしてみると、どうしても何かにぶつかると思います。読んでくださったあなたが、なるべく一人(や少人数)で困難に立ち向かわずに、COなど使えるものを活用して健康に活動できるといいなと願います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。